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<弁理士コラム>香港での特許権利化:PCT出願からの手続きと2019年新制度のポイント
香港はアジアのビジネスハブとして重要な市場であり、この地域で事業を展開する上で、特許権による技術の保護は非常に重要です。当事務所の以前の記事(2022年10月掲載「香港での権利化について」)でも触れましたが、香港では「標準特許(スタンダード特許)」と「短期特許(ショートターム特許)」の2種類の特許制度が運用されています。
本記事では、特に国際出願であるPCT出願に基づいて香港で標準特許を取得する「再登録制度」の手続きについて、以前の記事で不足していた情報を補足し、さらに2019年に導入された標準特許の新しい直接出願ルート(原授標準特許制度)についても概説します。
PCT出願に基づく標準特許(再登録制度)の手続き
PCT出願を利用して香港で標準特許の保護を求める場合、以下の2段階の手続きが必要です。この制度は、指定特許庁で付与された特許を香港で再登録する形となります。
1. 指定特許庁への国内移行
まず、PCT出願について、以下のいずれかの指定特許庁へ香港での権利化の基礎とするための国内移行手続きを行います。
・ 中国国家知識産権局 (CNIPA)
・ 英国特許庁 (UKIPO)
・ 欧州特許庁 (EPO) ※英国を指定し、英国で有効化された欧州特許(出願を含む)が対象
2. 第1段階:香港知識産権署への記録請求 (Request to Record)
上記指定特許庁での「出願公開日」または「国内移行が通知された日」のいずれか遅い方から6ヶ月以内に、香港知識産権署 (IPD) へ記録請求(Form P4を使用)を行います。これにより、香港での権利化プロセスが正式に開始されます。
3. 第2段階:香港知識産権署への登録・付与請求 (Request for Registration and Grant)
指定特許庁で「特許が付与された日」から6ヶ月以内に、香港知識産権署へ登録・付与請求(Form P5を使用)を行います。この手続きが完了すると、香港で標準特許が付与されます。
留意点:
・欧州特許(EPO)を基礎とする場合、その欧州特許が英国を指定しており、英国において有効な状態であることが必要です。
・指定特許庁で特許が付与されなければ、香港での第2段階の手続きに進むことはできません。各手続きの期限管理が非常に重要です。
2019年導入:原授標準特許(Original Grant Patent: OGP)制度
従来の再登録制度に加え、2019年12月19日からは、香港知識産権署に直接標準特許を出願し、同署が実体審査を行う「原授標準特許(OGP)」制度が開始されました。これにより、出願人は指定特許庁を経由せずに香港で標準特許を取得できる選択肢が増えました。
ただし、このOGP制度は、現時点ではPCT出願の国内移行ルートには対応していません。したがって、PCT出願を基礎として香港で標準特許を取得する場合は、引き続き上記の再登録制度を利用することになります。
短期特許(ショートターム特許)について
標準特許とは別に、香港には短期特許制度があります。これは日本の実用新案制度に似ており、方式審査のみで比較的早期(通常4〜6ヶ月程度)に権利化が可能です。存続期間は出願日から最長で8年間です。PCT出願(中国を指定)に基づいて香港で短期特許を申請することも可能です。
まとめ
香港での特許権取得は、戦略に応じて複数のルートが考えられます。特にPCT出願を活用する場合、再登録制度の手続きを正確に理解し、期限を遵守することが不可欠です。また、新しいOGP制度の動向も注視していく必要があります。
当事務所では、お客様のニーズに合わせた最適な香港での権利保護戦略をご提案し、手続きをサポートいたします。ご不明な点がございましたら、お気軽にご相談ください。
参考情報:
・香港知識産権署 (IPD) – Patents: https://www.ipd.gov.hk/en/patents/index.html
・香港知識産権署 – Patent Examination Guidelines (Standard Patent (R) – 再登録標準特許に関するガイドラインは、上記サイト内の関連セクションをご参照ください。)
弁理士 長田 大輔