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<弁理士コラム>ファッションローと知財(商標権・意匠権・不正競争・著作権)について
ファッションローとは、ファッション産業やファッション業界に関わる様々な法律問題を取り扱う法分野をいいます。グローバル化やデジタル技術などの発達を背景として法分野として確立されたもので、近年注目を集めています。(本ガイドブックより)
本ガイドブックでは、以下の7項目に分けて、自己の権利の保護を図ることを推奨するとともに、他人の権利等に抵触しないよう注意喚起しています。
I. ブランドを立ち上げたらまずやるべきこと
II. ファッションデザインの権利について知っておくべきこと
III. プロモーション・広報を外部クリエイター等に依頼する際に気を付けること
IV. 生産・流通について知っておくべきこと
V. サステナビリティについて知っておくべきこと
VI. 海外でのビジネスを検討する際に知っておくべきこと
VII. デジタルファッション領域にチャレンジするときに知っておくべきこと
上記項目の内、知財に関する部分について概要を紹介いたします。(数字は本ガイドブックの項目番号で記載しています。)
I. ブランドを立ち上げたらまずやるべきこと
1.ブランド名を商標出願・登録しよう(商標権)
ファッションブランドは単に商品の名前というよりは、商品のコンセプトやシリーズ、デザイナー名などを考慮した販売戦略としてとらえられる面もあります。そのため、ブランド名は、安心して使用できること、他社に真似されないことが必要であり、商標登録して商標権を得ておくことは、極めて重要と言えます。
本ガイドブックには、商標や商品の決め方、登録されている商標の検索方法、中国での出願(模倣対策)、各手続きの問い合わせ先等が一通り記載されています。
商標登録は、出願から登録まで約6ヶ月かかるため、時期的な考慮も必要であり、早めに検討し出願し、販売前に登録しておくことが望ましいです。
II. ファッションデザインの権利について知っておくべきこと
2.自分たちのデザインを守ろう
2.1 日本国内で最初に販売された日から3年間はそっくりのコピーから守られることを知っておこう(不正競争)
デザイン(商品の形態)の模倣行為は不正競争行為に該当し、日本国内で最初に販売された日から3年間はデザインが保護される可能性があります(不正競争防止法第2条第1項第3号)。意匠登録を行っていない場合でも、不競法で保護される可能性があります。商品の販売日や商品の共通性(模倣)について考慮しておくことが肝要です。
2.2 意匠登録を検討しよう(意匠権)
ファッションデザインはライフサイクルが早いため、意匠登録と相性が良くないとも言われます。しかし、デザイン段階から意匠登録も視野に入れた戦略的な発想も重要です。
なお、自身によるデザイン公開から1年以内であれば、新規性喪失の例外が適用されます。令和5年の法改正によって、公開に係る資料は、最先のいずれかの公開行為(1つの公開行為)のもので足りることになりました。
III. プロモーション・広報を外部クリエイター等に依頼する際に気を付けること
3.他社のデザインの権利等に触れないようにしよう
3.4 イラストや絵は安易にコピーしないようにしよう(著作権)
イラストや絵には著作権が発生する可能性があります。どのようなデザインであるか確認し、著作権が発生しているか検討する必要があります。
4.異なる文化のデザインやモチーフ、スタイル、名前を取り入れる際は慎重に
ある文化・民族・コミュニティに特有のデザインやモチーフ、スタイルや名前などの要素を、そのコミュニティに属しない外部の主体(例:ブランドやデザイナー)がビジネスに流用し、自らの利益だけを追求することなどを「文化の盗用」といいます。
異なる文化のデザインなどの歴史的な背景や社会的な意味をしっかりとリサーチし、想像力を持つことが重要です。
本ガイドブックには過去に問題となったケースが挙げられています。
5.リメイクやアップサイクルについて知っておくべきこと
リメイク等した商品に商標が付されている場合や、デザイン(意匠)を利用している場合、イラストが付されている場合は、他人の商標権・意匠権・著作権等が問題となり得ますので注意が必要です。
IV. 生産・流通について知っておくべきこと
12.工場との取引で気を付けるべきポイント(OEM契約―自社ブランド製品を他社に委託して製造してもらう場合のポイント)
契約書の規定(商品の仕様・納入方法時期・検査)や・下請法等について考慮する必要があります。
他国でのOEM生産の場合、生産や輸出行為が商標の使用行為に該当し、当該国の商標権に抵触する可能性もありますので、OEM生産国での商標登録も検討する必要があります。
また、現地の工場の人が横流して、商標が付された商品が流通しないように監視する必要もあります。
VI. 海外でのビジネスを検討する際に知っておくべきこと
17.海外に進出する際、ブランド名はどう守る?(海外での商標登録)
基本的に、各国での商標登録が必要になります。
マドプロ出願(商標の国際出願の制度)を利用することで、一つの出願で複数の国に出願が可能となります。現地代理人手数料がかからないため、複数国への登録の場合は費用を抑えられます。更新や名義変更の管理を一括で行えるメリットもあります。また、後から出願する国を増やすことも可能です。
18.海外においてブランドのデザインを模倣された、どうすればいい?
模倣品が海外から日本に輸入されている場合、税関の輸入差止申立制度を活用することで、条件を満たせば輸入を差止めることができます。
海外向けの販売に留まる場合は、当該国での法律で対応を検討する必要があります。
21.日本から越境ECを始めるときに気を付けるポイントは?
商品の販売地域について外国も対象とする場合は、外国の商標登録の検討・先行商標登録調査が必要となります。
VII. デジタルファッション領域にチャレンジするときに知っておくべきこと
23.デジタルファッションを制作・販売する際、どこに気を付ければいい?(商標権・不正競争)
ファッション製品とデジタルファッション(仮想衣服等)では、登録すべき商品・役務の区分や指定商品・役務が異なります。ファッション製品は第25類、デジタルファッションは第9類となります。デジタルファッションの製品化などが考えられる場合は、2つの区分の検討が必要といえます。
第9類において類似する商標登録が存在しないか(商標権)、商標登録がされていなくても著名なマークやロゴに類似していないか(不正競争)、を検討する必要があります。
まとめ
本ガイドブックでは、知財に関する法律について詳しく記載されていますので(特に、商標登録の方法・検討の仕方などが参考になります)、ファッション業界に限らず多くの業界で役に立つ箇所があると思います。
自己の権利(デザインやブランド名)を守るとともに、他人の権利に抵触しないこと(他人のデザインやブランド名に類似しないこと)の2つの側面から権利を検討することが重要となります。
契約内容や、製造の委託、オンラインショッピング等の注意点や必要な事項の検討も重要ですが、商品の販売戦略の立案や実行の円滑化においても、販売前の知財(商標権・意匠権・不正競争防止法・著作権)の検討は必須といえるでしょう。
リンク:
「ファッションローガイドブック2023」(経済産業省 公表)
https://www.meti.go.jp/shingikai/mono_info_service/fashionlaw_wg/pdf/20230331_1.pdf
「ファッションローガイドブック2023」概要版:
https://www.meti.go.jp/shingikai/mono_info_service/fashionlaw_wg/pdf/20230331_2.pdf
弁理士 翠簾野哲