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<弁理士コラム>「我が国の知的財産制度と経済の関係に関する調査報告」の概要と考察

 2025年5月に特許庁より「我が国の知的財産制度と経済の関係に関する調査報告」が公表されました。
https://www.jpo.go.jp/resources/report/sonota/keizai_yakuwari.html
 本報告では、日本の知的財産制度が経済に果たす役割についての調査結果が示されています。具体的には、「環境関連発明の波及効果の決定要因に関する研究」、「知財投資と付加価値等との関係についての分析」、「発明者の多様性が効果を発揮する条件に関する調査」などが報告されています。

 分析に使用されたデータの母集団は、主に日本の上場企業です。分析には、2002年から2021年にわたる3,821社のパネルデータが用いられました。
 内容は多岐にわたりますが、特許に関して見てみますと、「特許集約産業」と「非特許集約産業」に分けてまとめられています。「特許集約産業」とは、従業員1,000人当たりの特許出願件数が平均を上回る産業とされています。平たく言えば、特許出願件数が平均を上回る産業が「特許集約産業」に該当します。特許集約産業は、主に製造業であり、例えば、化学工業、機械産業、素材産業などです。非特許集約産業は、銑鉄・粗鋼、建築業、小売業、金融業などです。興味深いことに、自動車部品およびその付属品は非特許集約産業に分類されています。一方で、自動車本体(車体を含む)は特許集約産業に分類されています。

 この報告書では、企業の付加価値に影響を与える知財権や知財投資について、特許ストックの蓄積が付加価値を向上させる可能性が示されたとまとめられています。ここで、「特許ストック」とは、企業が過去から現在までに蓄積してきた特許権の累積的な量や価値を示す指標をいいます。そして、技術的優位性を確保する特許権の蓄積が、企業の競争力を高めるための重要な要因となることを示唆していると指摘しています。これは従来から言われてきたことであり、統計的にも裏付けられたということでしょう。

 また、特許集約産業が非特許集約産業と比較してTFP が高い傾向にあり、特許権による技術の保護が生産性を高めることを示しているとしています。ここで、「TFP」とは、全要素生産性(Total Factor Productivity) の略称であり、企業の総資産、従業員数、および付加価値を用いて計算され、生産性の向上(技術進歩や効率化など)を示す指標とされています。ここでも、やはり生産性の向上には特許が必要であることが裏付けられたと言えるでしょう。

 しかし、特許ストックの蓄積が営業利益にマイナスの影響を与えることが示されています。これは、特許の取得や維持に係るコストが営業利益を圧迫する可能性があるためと考えられます。
 そして、非特許集約産業においては特許取得をサポートする政策を実施しつつ、特許集約産業においては特許取得だけでなくその技術を実際に活用するための支援策を実施することを勧めています。このように自社は特許集約産業なのか非特許集約産業なのかを確認し、どのような特許戦略をとるかを決定することも有効であるといえます。

 我々も顧客と特許戦略について常に議論をしていますが、特許出願するだけでなく、どの観点からどれくらいの数を特許出願するのか、そして特許取得の費用や維持費が適切かを検討し、今一度、戦略全体を見直すことにも大きな意義があるといえるでしょう。

弁理士 藤田考晴

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