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<弁理士コラム>特許異議申立ての日欧比較


 日本で登録となった特許に対して、外国のお客様から異議申立てをしたいとのことでお手伝いをする機会がありました。また日本のお客様から、欧州で登録となった特許に対して異議申立てをしたい、というご相談を受けることもあります。そこで本稿では、特許異議の申立てがよく行われている分野と結果について、日欧で比較してみたいと思います。

1.日本
 2015年4月から2023年12月までに最終処分がなされた特許異議申立て事件の総数は8,820件でした。そのうち、異議申立てによって権利範囲に変更なし、すなわち訂正されることなく特許が維持された件数は3,306件で、事件数全体の37.5%でした。換言すると、62%以上は、特許査定時の権利範囲から何らかの変更が生じたことになります。権利範囲が変更された5,480件のうち、訂正が行われて維持されたのが4,456件、訂正を行っても取消または却下となったのが1,024件となっています。この結果から、日本では、異議申立てを行って、維持となった特許は約88%であり、維持された特許のうち半数以上に何らかの訂正が行われるものの、かなり高い割合で維持されているといえます。

(出典:審判の最新動向、2024年、特許庁 https://www.jpo.go.jp/news/kokusai/seminar/document/chizaishihou-2024/jpo-doko_jp.pdf

 また上記と同じ時期に日本で異議申立てが行われた特許の技術分野については、トップ3は、多い方からIPCのセクションC(化学等:2,600件、申立件数全体の29.5%)、セクションA(生活必需品:1,585件、18.0%)、セクションB(処理操作、運輸:1,442件、16.3%)でした。特許登録件数に対して異議申立てがなされた割合という観点では、セクションCは1.2%であるのに対し、セクションBが0.5%、セクションH(電気)が0.3%でした。これは、特許登録件数に対して化学系分野では他分野よりも少し高い割合で異議申立てが行われていることを示しています(出典:上記グラフと同じ資料)。
 なお、2023年には209,368件の特許が登録になったのに対し、1,411件の特許に対して異議申立てが行われました。

2.欧州
 欧州での異議申立ての結果について、上記した日本の結果と同じ時期で比べてみました。

(出典:Statics 2016-2023, EPO, https://www.epo.org/en/about-us/statistics/data-download
 欧州では、2023年には77,282件の特許が異議申立てを受け得る状況であったところ、実際には2,410件の特許に対して異議申立てが行われました。単純に数値のみで比較すると、欧州では異議申立ての対象となり得る特許に対して約4.6倍の数の異議申立てが行われているといえます。また、特許が取消になる割合も、2020年を除くとほぼ25-29%で推移しており、これは日本で取消になる割合(約12%)のほぼ2倍程度と高いことが分かりました。
 技術分野別では、2023年には化学系の2,929件中1,188件(40.6%)が最も多く、次いで機械工学分野(798件、27.2%)、装置系(420件、14.3%)でした。区分が日本とは異なるものの、化学系での異議申立てが最も多いという傾向は日本と同じといえます。

 異議申立てを行うことができる期間(日本:特許掲載公報の発行日から6ヶ月、欧州:欧州特許の公報発行日から9ヶ月)、手続の流れ(日本:口頭審理無し、欧州:口頭審理あり、など)等、他にもいろいろな点について日欧間で違いがありますが、異議申立てによって特許が取消になる割合は日本と比べると欧州の方が2倍以上高いことを確認できました。欧州で成立した特許について異議申立てをチャレンジするきっかけの一つになれば幸いです。

 ところで、EPOからは特許に関する種々の統計が公開されているところ、年次統計であるPatent Indexは、なんと、モバイルアプリとして無料でGoogle Play またはApple Soreからダウンロードができるようになっています。EPOは特許に関する統計をより多くの人に知ってもらいたいと考えているようです。

 オリーブ国際特許事務所では、多くの欧州代理人とともに仕事を行っています。日本、欧州での異議申立て制度に関してご依頼、質問等がありましたらお気軽にお問い合わせください。

弁理士 河合 利恵

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