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<弁理士コラム>特許出願非公開制度について

令和6年5月1日より、経済安全保障推進法に基づいて特許出願非公開制度が開始されます。この制度は、特許出願の明細書等に、公にすることにより外部から行われる行為によって国家及び国民の安全を損なう事態を生ずるおそれが大きい発明が記載されていた場合に、「保全指定」という手続きにより、出願公開等の手続きを留保するとともに、その間、必要な情報保全措置を講じるものです。

特許出願を非公開にするかどうか、すなわち、保全指定に該当するか否かの判断は、特許庁による第一次審査(スクリーニング審査)と、内閣府による第二次審査(保全審査)の二段階で行われます。

(1)一次審査
一次審査では、保全対象に該当するか否か、換言すると、公にすることにより国家及び国民の安全を損なう事態を生ずるおそれが大きい発明が含まれ得る技術分野(特定技術分野及び付加要件)に属する発明が記載されているか否かを判断します。

一次審査の結果、保全対象と判断された場合には、出願から3か月以内に、特許庁から内閣府へ書類が送付されるとともに、出願人に対して、その旨の通知が発せられます。
特定技術分野等の詳細については、以下のサイトをご覧下さい。
https://www.cao.go.jp/keizai_anzen_hosho/doc/tokutei_gijutsu_bunya.pdf

(2)二次審査
二次審査では、<1>国家及び国民の安全を損なう事態を生ずるおそれの程度、<2>発明を非公開とした場合に産業の発達に及ぼす影響等を考慮して、保全指定を行うか否かを判断します。保全指定をしようとする場合、出願人に対して、出願を維持するか取り下げるかの意思確認が行われます。出願人が出願維持を希望した場合、保全指定が行われ、その旨の通知が出願人に発せられます。保全指定は、出願から10か月以内に行われます。

保全指定中は、以下の制約が課されます。
①出願取り下げの不可
②発明の実施の許可制
③発明内容の開示の原則禁止
④発明情報の適正管理義務
⑤他の事業者との発明の共有の承認制
⑥外国出願の禁止

②、③に違反すると、2年以下の懲役または100万円以下の罰金などの罰則が科されます。
⑥に違反すると、1年以下の懲役または50万円以下の罰金などの罰則が科されます。

保全指定中、出願公開、特許査定、拒絶査定は留保されますが、その他の特許手続き(手続補正、出願審査請求、拒絶理由等)は留保されませんので、非公開下で手続きを進めることは可能です。

保全指定中、実施制限等により出願人が受ける通常生ずべき損害が補償されます。詳しくは、以下のサイトをご覧ください。
https://www.cao.go.jp/keizai_anzen_hosho/doc/patent_sonshitsu_qa.pdf

保全指定の延長・解除の判断は、1年毎に行われ、保全指定が解除されると、当該特許出願は、特許庁において通常のルートに戻り、出願公開等がなされることとなります。

(3)外国出願禁止の事前確認
日本に出願された発明を保全指定して非公開とした場合でも、同じ発明が外国で出願されて公開されてしまっては、保全指定した意味がなくなってしまいます。このため、日本国内でした発明で公になっていないもののうち、日本に特許出願すれば保全審査に付されることになる発明は、原則として、外国出願(PCT出願も含む。)よりも先に日本に特許出願(第一国出願)しなければならないとされています。

日本出願を行わずに外国出願を行う場合、外国出願を予定している発明が外国出願禁止の対象となりうるか否かの判断を行う必要がありますが、発明の技術分野などによっては判断に迷う場合があります。このような場合、特許出願が外国出願禁止の対象になるか否かを特許庁に対して事前に確認することが可能です。事前確認を行うためには、特許庁に対して所定の申出書を提出します。申出書を提出すると、10開庁日以内に、外国出願禁止の対象か否かが判断されます。

 今後、特定分野における発明については、保全指定がなされる可能性のある発明か否かを事前に検討し、戦略的に出願を行うことが必要となります。保全指定される可能性があるか否かなど、判断に迷う場合などは、専門家である弁理士へ相談されることをお勧めいたします。

関連サイト
https://www.jpo.go.jp/system/patent/shutugan/hikokai/index.html
https://www.cao.go.jp/keizai_anzen_hosho/patent.html
https://www.cao.go.jp/keizai_anzen_hosho/doc/patent_qa.pdf

弁理士 川上美紀

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