NEWS

新着情報

RSSを購読する

<弁理士コラム>日本での出願の審査の早さは?特許になりやすい?〜特許庁報告書の統計から分かること

 日本のみならず外国からのお客様から、「この特許出願(商標出願)は日本でどれくらいの期間で特許(登録)になるのか」とのお問い合わせを受けることがしばしばあります。そんなときに、所内での過去の傾向から数値を出すのも一つの方法ですが、私は特許庁が毎年作成し、特許庁のサイトに掲載されている統計集を一度は確認することにしています。どのような統計が掲載されているのでしょうか。今回は特許出願に関して確認してみました。

(1)特許出願から特許査定まで
 日本で特許出願をすると、出願日から3年以内に審査請求を行った後に審査官による審査が行われます。下記図*1から、2021年度では、審査請求から平均10ヶ月程度で最初の拒絶理由通知または特許査定が発行されていました。さらに、審査請求から平均15ヶ月程度で特許査定が得られていたことが分かります。

 さらに、要件を満たす案件については早期審査を申請すると、2022年度は申請から平均2.3ヶ月で最初の拒絶理由通知または特許査定が発行されました*2。ここから、早期審査を申請しなかった場合よりも約8ヶ月早く審査結果が得られることが分かります。特にスタートアップや中小企業で、製品化のプロセスとの関係で早く特許を得ることができるかを知りたい場合には、ぜひ申請すべきであることが良くわかるデータとなっています。

(2)日本での権利化の早さは、他国と比べてどれくらい早いのか?
 経験上、日本での権利化は他国での権利化よりもかなり早く進むと感じています。分野に依存する部分もありますが、具体的にはどのくらい早いのでしょうか。

 このような疑問に対する回答も掲載されています*1。米国には出願時の審査請求制度がありませんが、仮に他の4ヶ国(日本、欧州、中国、韓国)について出願と同時に審査請求を行ったとすると、1回目の審査通知が最初に発行されるのは、実は欧州の拡張サーチレポート(平均4.3ヶ月)です。しかしながら、特許査定(または拒絶査定)の発行までに最も時間がかかるのもまた欧州(約2年)であることも分かります。(正直なところ、出願から2年で特許査定までたどり着けた欧州案件はそれほどないというのが実感ですが・・・) 欧州で拡張サーチレポートの発行が数年前からかなり早くなっており、これは欧州特許庁内で、発行を早めるというプロジェクトのもとで変化があったものとなっています。
 そしてこれら主要5ヶ国のうち、最も早く特許査定(または拒絶査定)が発行されるのが日本です。これは体感とも一致しています。韓国は日本とほぼ変わらない審査期間となっていますが、これは審査の仕組みが日本とかなり似ていることとも関係があるためと推測されます。また日本と韓国では、中国、米国、欧州と比較すると平均で半年以上早く特許査定(または拒絶査定)が発行されることが分かります。

(3)特許の取得しやすさは国によって違う?

 体感として、日本では特許になりやすく、米国や欧州では日本よりも特許にするのに苦戦することが多い、と感じていました。では統計ではどうなっているのか。図*1を見ると、2016年から2018年までは日本の特許査定率が最も高かったのですが、2019年以降は、意外なことに、米国の特許査定率が最も高く、約78%と、日本の約74%を上回っていたことが分かりました。米国人が出願した案件を優先して特許にしているのでは?、との疑問も浮かびましたが、そういうことではないことも別の図から確認することができました。こちらについてはまた別の原稿で触れることができればと思います。

 特許庁は毎年、日本国内や他国における、特許や意匠を含む知的財産についての各種統計をまとめた「特許行政年次報告書」と、施策取り組みの結果をまとめた「特許庁ステータスレポート」とを発行しています。上記のようなデータや図がふんだんに掲載されています。根っからの理系の性格故か研究者気質がまだ残っているためか、私はこれらの報告書に掲載されているデータの数値や図を眺めることが好きです。昨年度の日本特許庁への出願件数は?といった具体的な数値を知りたいときに限らず、目の前の案件から少し離れ、今はこんな流れで特許に関する施策が動いているのか、といったことを見てみるのも一興かもしれません。

*1:出典は「特許行政年次報告書2022年版」(https://www.jpo.go.jp/resources/report/nenji/2022/index.html
*2:出典は「特許庁ステータスレポート2023」(https://www.jpo.go.jp/resources/report/statusreport/2023/index.html

弁理士 河合 利恵

弁理士河合利恵のプロフィール及びお問い合わせはこちら