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<弁理士コラム>欧州単一特許制度がいよいよ本格始動

 2023年6 月から、長年議論が行われてきた、「単一効特許」(Unitary Patent: UP)制度と「統一特許裁判所」(Unified Patent Court: UPC) 制度とがパッケージとなった「欧州単一特許制度」が、本格的に始まる予定となりました。
 これまでは、欧州において特許を取得するためは、各国に直接出願を行う方法とともに、欧州特許庁 (EPO) に出願することで、欧州特許条約の加盟国での権利化を目指して一括して審査を受ける、という方法が採用されてきました。後者は、EPOにて審査を受けた後、特許査定となると、権利化したい国を指定してバリデーションを行うことで当該国で特許権が発生する、という制度になっています。新しい制度はこれまでの制度とどこが違うのでしょうか?

 「単一効特許」とは、直接出願制度による特許、EPOでの特許査定後のバリデーションによる特許(以下、「従来型」)に加えて、新たな選択肢の一つとなる制度です。「単一効特許」は、EPOに出願をして審査を受ける、というステップは従来型と同じですが、「単一効特許」制度ではこの制度に参加している国全部に対して単一の効力を有する特許が発生する制度となります。なお、従来型の特許と単一効特許とで二重に保護することはできず、どちらかの特許を選択する必要があります。
 従来型と単一効特許とは、EPOでの審査後、許可予告通知発行、特許査定発行を経て特許公告日を迎えるところまでは共通しています。ここで、単一効特許を選択する場合には、その特許公告日から「1ヶ月以内」に統一効特許を請求する手続(翻訳文提出と同時)を取る必要があります。なお、従来型は特許公告日から「3ヶ月以内」にバリデーション手続を取ることから、単一効特許の方が手続期間が短い点は注意が必要です。
※欧州主要国のうち、イギリス、スペインはこの単一効特許制度を受け入れていません。このため、これらの国で特許を取得するためには従来型で進める必要がある点に要注意です。

[メリット]
 単一効特許を選択するメリットとしては何があるでしょうか?
 特許維持年金の観点からは、4ヶ国以上で権利化する場合には、従来型よりも単一効特許の方が維持年金の総額が安くすむようです。また、ライセンスを提供すると、年金額を15%減額することが可能となります。逆に、2,3ヶ国のみでの権利化を希望する場合には、従来型を選択する方が費用面では有利となります。

[デメリット]
 逆に、単一効特許のデメリットには何があるでしょうか。
 先に触れましたように、「欧州単一特許制度」は、統一裁判所制度を含むパッケージとなっています。単一効特許が登録となった後で無効訴訟が行われる際に管轄裁判所となるのが統一裁判所となります。単一効特許で権利化された特許について無効訴訟が行われ、特許が無効になると、全ての国について権利が無効となってしまうのです(マドプロ制度のセントラルアタックと似ています)。また、統一裁判所制度は、単一効特許についてだけでなく、従来型で既に各国で成立している特許についても適用されます。
 この点に関しては、従来型の特許を統一裁判所 (UPC) の管轄外とするための手段が用意されています。
 それが「オプト・アウト」です。移行期間が少なくとも7年間設定されており、その間はオプト・アウトを行うことで、UPCが管轄権を有することを回避して、各国裁判所を管轄とすることができます。

 従来型特許をオプト・アウトする/しないという判断のポイントとしては、例えば以下のものがあります:
 ・積極的に権利行使する特許?防御メインの特許?・・・防御メインならオプト・アウト不要で可
 ・保持する特許が関連する製品の市場・・・競合相手が複数国にある場合、オプト・アウトを検討
 ・保持する特許の有効性に自信がない・・・オプト・アウトを検討

 従来型特許は、移行期間内であれば、オプト・アウトした後で、再度1回だけオプト・インを行うことが可能です(その後で再度のオプト・アウトは不可)。
このため、UPCの判断基準が明確化してくるまでは、いったん全てオプト・アウトしておく方が安心、という考えもあります。

 移行期間(現段階で7年、最長14年)が終了すると、従来型特許の訴訟管轄はUPCのみとなります。
このため、これから出願を行う案件について、欧州の特定の少数国での権利化を目指す場合などは、EPOに出願ではなく各国への直接出願を検討する必要も出てくるかと考えます。貴社のビジネス傾向に合わせてご検討ください。

 オリーブ国際特許事務所では、多くの欧州代理人とともに仕事を行っています。欧州単一特許制度について分からないこと、不安なことがありましたらお気軽にお問い合わせください。

参考:単一効特許についてのEPOウェブサイト
https://www.epo.org/applying/european/unitary/unitary-patent.html

弁理士 河合 利恵

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