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<弁理士コラム>PCT出願の明細書に米国移行用に基礎出願の参照による援用(Incorporation by Reference)を記載しておくべきか。

 

先日、日本の基礎出願に基づくPCT出願を行う際に、お客様からのご要望で、「米国用に基礎出願を援用する記載を追記しておいてください」とのご依頼を頂きました。米国出願における参照による援用(Incorporation by Reference)は、特定の文献を援用することでその文献の開示内容を明細書等の一部とするための記載です。日本での基礎出願に対する優先権を主張してパリルートで米国出願する際には、多くのケースで基礎出願を援用する記載がなされていると思われます。

パリルートの米国出願では米国出願時に参照による援用の記載をすればよいわけですが、PCT出願に基づく米国移行ではPCT出願の出願時の記載に基づいて手続きがなされるため、PCT出願時に参照による援用の記載をするか、米国移行時に予備補正により参照による援用の記載を追加する必要があります。

前述のお客様からのご要望に対しては、参照による援用の記載をすること自体で不利益が生じることは考えにくいので、参照により基礎出願を援用する記載を追記いたしました。その際に疑問に思ったのが、このような記載を追記するかどうかによって、審査時に補正可能な範囲が変わるのかどうかということです。

結論としては、PCT出願の明細書に基礎出願の参照による援用を記載するかどうかによって補正可能な範囲は変わらないようです。

米国特許規則37CFR1.57(a)には、出願データシート(Application Data Sheet)において英語により行った先の出願を出願番号、出願日、国等により明示するものは、出願の明細書及び図面を構成すると規定されています。基礎出願に基づく優先権を主張する場合には出願データシートに基礎出願の情報を明示しますので、基礎出願を援用する記載をしていなくとも、そのような記載をした出願と同様の効果を得ることができます。

では、米国出願においてどのような範囲まで基礎出願の記載に基づいて補正をすることができるのでしょうか。例えば、米国出願の一部に誤訳等があるとわかった場合に、その誤訳を基礎出願の記載に基づいて補正することが認められるのはどのようなケースでしょうか。

米国特許規則37CFR1.57(d)には、本質的資料(Essential Material)を参照によって援用するには、米国特許または米国特許出願公開でなければならないと規定されています。ここで、本質的資料とは、米国特許法112条(a),112条(b),112条(f)に規定される要件に関するものです。一方、米国特許規則37CFR1.57(e)には、非本質的資料(Nonessential Material)を参照によって援用するには、米国特許または米国特許出願公開に限らず、外国特許、公開された外国出願等も含まれると規定されています。

以上のことから、米国特許法112条(a),112条(b),112条(f)に規定される要件には関連しない明細書の誤訳等については基礎出願を非本質的資料として参照して補正の根拠とすることができますが、米国特許法112条(a),112条(b),112条(f)に規定される要件に関連するクレームの誤訳等については基礎出願(日本出願)を本質的資料として参照して補正の根拠とすることはできないと考えられます。

このように、PCT出願の明細書に米国移行用に基礎出願の参照による援用(Incorporation by Reference)を記載していなくとも、これを記載した場合と同様の効果を得ることができますが、基礎出願の記載に基づいて補正できる範囲には制限があります。

なお、参照による援用(Incorporation by Reference)について、以下の考察が参考となります。

日本弁理士会月刊パテント2017年12月(米国特許実務研究会報告 Incorporation by Reference (参照による援用)についての考察 ―記載不備のリスク低減と翻訳費用削減の可能性について―)

こちらの考察では、明細書をコンパクト化して審査官の発明理解を促し、かつ翻訳費用を削減するために、参照による援用(Incorporation by Reference)を有効活用することが提言されています。

弁理士 長田大輔

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